体験する仏教  

ずっと、ずっと求めていたブッダの智慧

常識を超えた呼吸瞑想法

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濁った氣(生命エネルギー)をすべて吐き出し、きれいな氣を十分に吸い込む。それが深呼吸です。ですから都会の雑踏や電車の中で深呼吸をしたいとは思いませんよね。深呼吸をしたい場所といえば、森林や海辺など空気の澄んだ場所でしょう。

濁った悪い気を出し、澄んだ良い氣を取り入れる。これは呼吸法の常識です。

起床時に、窓を開け放ち、腹式呼吸で体内に沈滞している濁った氣を吐き切り、清らかな氣を吸うのはお勧めです。(腹式呼吸の仕方については、本ブログの記事「呼吸の力」・「丹田呼吸法」をご参照ださい)。

カウンセリングの場でも、呼吸法を行うことがあります。この際、イメージを伴った呼吸法を指導することがあります。

「怒りや悲しみを体内にある黒い煙だとイメージして、それを口から吐き出してください。つぎに安らぎや喜びを光とイメージして、その光を鼻から吸収しましょう」こんな具合です。

最近、悪いものを吐き出して良いものを吸うという呼吸法の常識を覆す、イメージ瞑想に出会いました。チベット仏教のトンレン瞑想です。以下にトンレン瞑想のやり方を紹介しましょう。

まず気持ちを落ち着け、絶望や苦痛、不安や恐れなどネガティブな感情を体験している人を思い浮かべます。つぎに以下のようなことをイメージして呼吸します。一般に氣功は、吐くことから始めますが、トンレン瞑想は吸うことから始めます。

吸息時=思い浮かべた人の、すべての苦しみが鼻をとおって自分の中に入ってくること                  をイメージします。

呼息時=自分の安らぎ、平和、健康、喜びといった思いのすべてを光のイメージに変えてその光が相手に届くことをイメージします。

これを繰り返したあと、順にその人が住む町、地域、国、地球、全宇宙へと対象を広げて、そこに住む人の苦しみを自分の中に取り込み、安らぎ、平和、健康、喜びの思いを光に変えて送り出します。

この呼吸瞑想を始めたのは、ハンセン氏病に罹ったチベット仏教の高僧でした。

この僧は、自分と同じような病に苦しんでいる人たちに、「自分はもうじき死ぬのだから、自分の中によきものが残っているのなら、それを使ってほしい」と願いました。さらには「病んでいる人たちの苦しみを、すべて自分が引き受けたい」とも願いました。

このような思いでトンレン呼吸瞑想を深めていくと、驚くべきことに、この高僧の病気は消えてしまったのです。

ちなみに、トンレンの「トン」はチベット語で「よきものを与えること」、「レン」は「他者の苦しみを自分が引き受けること」を意味します。

この瞑想はダライ・ラマ法王も実践しています。チベット独立運動に伴う暴動の中で、ダライ・ラマ法王は、人々の憎悪や不安を自らのこころに引き受け、こころの平安を人々に与える瞑想を行っていました。

悪しきものを、吐き出すのではなく自己の身の内に入れるというのは、常識を超えているといってもよいでしょう。「行うのは、ちょっと怖いので遠慮しておきます」という人もいるかもしれません。

ある仏教瞑想の指導者が、つぎのようなイメージ呼吸の指導をされていました。

「ネガティブな思いを全部吐き出すとイメージしながら、声を出して南無妙法蓮華経を唱えましょう。そして、みほとけの慈悲なる光をイメージして、心中で南無妙法蓮華経を唱えながらその光を吸いましょう」

たしかに、このイメージ呼吸も効果があるようです。ですがトンレン瞑想を知ったわたしは、南無妙法蓮華経を唱える呼吸法を行うにあたって、他者の苦しみや悲しみを吸い、それを光に変えて苦しんでいる人に届ける呼吸を行ってみました。世界の苦しみを引き受ける場合には、南無妙法蓮華経を唱えながら、光を世界に向かって全身から放ってみました。

その結果、みほとけの慈悲への信を深めながら行えば、このイメージ呼吸で自己の心身が損なわれる危険は、まったくないことを実感しました。これによって他者も自己も深く癒されていくことを感じました。

悪しきものを引き受け、それを光に変える呼吸。それは、常識的には受け入れ難いものかもしれません。ですがそれは、悪しきものを吐き出し、光を吸う呼吸よりも、法華経の精神に適ったものであると感じています。

わたしはチベット仏教の僧ではなく、法華の僧ですので、自己の修行の中心は、トンレン瞑想ではなく唱題です。唱題も自己と他者を深く癒すものです。唱題時のこころの状態については、また別の記事で紹介したいと思います