「名前はこの世で一番短い呪(しゅ)である」という言葉があります。たしか夢枕獏さんの小説「陰陽師」の中で安倍晴明が語った言葉であったかと思います。
ここでいう「呪」は「呪い」ではありません。呪とは、目に見えない形なきものを言葉によって縛ることです。名前を付けることによって、形なきエネルギーを固定化できると陰陽師は考えていました。
アニメ「千と千尋の神隠し」で、魔女、湯婆婆(ゆばあば)は、主人公、千尋と川の神である龍神、ニギハヤミコハクヌシの本名を奪って、それぞれを千、ハクと呼び、支配します。
本名を奪うというのは、その人固有のエネルギーを奪ってしまうということなのでしょう。
戸籍上の名前と言うのは、簡単に変えられるものではありません。ですが、僧侶になった場合は、戸籍上の名前を改めることになり、それが法的に認められています。これは陰陽道的に言えば、出家して、仏道を歩む者としての、新たないのちのエネルギーを固定化するということなのでしょう。
わたしの場合は改名せず、戸籍上の本名をそのまま踏襲し、読み方だけを訓読みから音読みに変えました。すなわち「弘之」はそのままで、読み方を「ヒロユキ」から「コウシ」に変えたわけです。これを襲名といい、宗門には襲名届を出して認められました。
ちなみに、現在、戸籍簿の名前の漢字に読み仮名を振る必要はなく、どう読んでもオッケーなので、襲名は改名のような法的手続きをする手間がかかりません。
弘之は「之(これ)を弘める」と訓読できます。「之」を「仏の教え」とすれば、まことに僧侶にふさわしい名で、名付けてくれた父に感謝しています。
表音文字のアルファベットと違って、漢字は表意文字で、一文字一文字が意味を持っています。名前に漢字を用いると、その漢字の持つ意味をその人のいのちに与えることになるといってもよいでしょう。。
最近は、いわゆるキラキラネームと言われる名前があり、普通に読めない名前もあります。
以前、「一二三」という名前に出会ったことがあります。「ひふみ」と読むのだろう思ったら「わるつ」と読むということで、「えっ、そうなの?」とびっくりしたことがあります。ワルツは一二三と三拍子で踊ります。それで「一二三」で「わるつ」なのでしょう。
近年、「一心」を「ぴゅあ」、「紅葉」を「めいぷる」と読むなど、さまざまなキラキラネームが登場しています
これらの場合も、漢字のもつ意味を、子どものいのちに与えることになるでしょう。
光宙で「ぴかちゅう」と読む名前が実際にあるそうです。漢字だけではなく、響きも考慮して名を付けないと、後で後悔することになるのではないかと気になることもあります。
「子どもの名をつけるにあたっては、その漢字の持つ意味、そして響きをよく考えることが大切だよ」と、これからお父さんお母さになる若い人たちに伝えています。
古来、わが国には言葉には霊が宿るという言霊(ことだま)信仰があります。名前には、その人の人生に作用する、霊的な力が宿っている気がします。安易な気持ちで命名することは慎んだ方がよいでしょう。
ある僧侶から伺った、名前に関わる開運、願望成就の方法を紹しましょう。
それは、B5版の白紙一枚に、自分の名前を一千回書くというものです。一週間以内と期限を定め、集中して、心を込めて丁寧にびっしりと書き込みます。
これを完遂すると自信が湧いてきます。「自信」とは「自己信頼」の略語。自分を信頼できるようになるのです。この紙には良念がこもります。言霊が宿るといってもよいでしょう。折りたたんで携帯すればお守りになります。
ただ、これを実行するにあたっては、自分も周囲をも幸せにする正しい願いを持つことが大切です。でないと業を深めることになってしまうので、要注意です。さらに言えば、正しい信仰を持って行えば、なおよいでしょう。
自分の名前を大切にすると、自分の輪郭がはっきりとしてきます。そして自己を信頼できるようになり、周囲からも大切にされるようになります。