アメリカの心理学者、アブラハム・マズローは、人間の欲求を次のような五段階の構造
で表しました(図では、第一段階を基底とするピラミッドになっています)。
①生理的欲求=食欲、睡眠欲、排泄欲など。
②安全欲求=身も心も共に健康で、経済的にも安定した暮らしをしたいという欲求。
③社会的欲求=友人や仲間、家族、会社や組織から認められたいという帰属欲求。
④承認欲求=他者からリスペクトされたい、承認されたいという欲求。
⑤自己実現欲求=理想の自己イメージに沿った自分になりたいと願う欲求。
わたしは教員時代、生徒が机上に置きっ放しにしていた保健体育の教科書をペラペラとめくっていて、教科書にこのマズローの説が載っているのを知りました。
実は、教科書には記載はされていませんが、マズローは晩年、五段階の上の更なる欲求、六番目の欲求があることを発表しています。自己超越欲求です。
チベット仏教の高僧、チョギャム・トゥルンパは、チベットの聖者、ミラレパの晩年について、こんなことを書いています。
彼はもう希望と恐れの風に吹かれて揺れるようなことはなかった。・・・そして最終的にミラレパは〔老いたる犬〕の段階に達する。それは彼が到達した最高の境地だ。人々が彼の上を踏み越え、彼を道とし、大地として用いる。彼はつねにそこにいる。彼は個人としての存在を超越したのだ。(『タントラへの道ー精神の物質主義を断ち切ってー』めるくまーる刊)
ミラレパが達したのが、自己超越の段階です。これは、個人的なエゴを磨き光らせるという五段階目を遥かに超えたステージです。
わたしが所持している『タントラの道』には、幼かった長男の、何を表現したのか意味不明の、鉛筆書きの迷画(イタズラ書き)が描かれています。このことから、わたしが『タントラの道』の中にある、この言葉と出会ったのは40年近く昔のことだったことが分かります。以来、この言葉は、鮮烈にわたしの胸に刻まれ、色あせることはありませんでした。
スピリチュアルな道を歩んでいる人の多くは、自己実現のステージにいるようです。
仏道はこれを超えた自己超越の道です。わたしはこのことを実感しながら唱題修行をしています。