祈りは効くのか。これは「人の意識は他者に影響を及ぼすことができるのか」と言い換えることもできるでしょう。
長男が幼稚園児だったころのことです。妻が長男について、「怪我でもしたのではないか、なんだか不安だわ」と言い出したことがあります。するとしばらくして長男が「ただいま」と元気に帰ってきました。
いつもならまだ帰宅する時間ではありません。その日は、たまたま幼稚園の都合で急に帰宅が早まったのでした。
長男は心の中で「お母さん、早くおうちに帰るよ」という意識を妻に送ったところ、心配性の妻は、その意識をそのまま受け取らず、息子は怪我でもして助けを求めているのではないかと誤変換してしまったようです。
人は他者から送られた意識をキャッチすることがあると感じている人は、少なからずいるのではないでしょうか。妻のように間違って受け止めてしまうことがあるのは、発する側の意識が強力でなかったり、思いを受け取る側の意識がニュートラルでなかったりするということがあるからだと思われます。
わたしの知人で、電車の中にぼっと立っている人の背中に向かって「うしろを向け!」という強い思いを送り、人を振り向かせることができる人がいます。百発百中ではありませんが、思いを送られた多くの人は、なんとなく振り向きたくなってしまうようです。
この意識の力について、科学的な研究がなされています。
医療ジャーナリストのリン・マクタガードは、著書『パワー・オブ・エイト』(ダイヤモンド社刊)で、10年にわたる科学的実験の結果、以下のようなことが分ったと記しています。
「集団で一人、あるいは一つのグループに集中して意識を送ると、強力な「力」が生まれ、病気を癒し、人間関係を修復し、戦争や暴力の発生率を下げることが可能だ。
しかし、実験中に発見された最も素晴らしいことは、意識を受け取った人だけではなく、送った人にも明らかな効果が見られたことだ」
「おうちに帰るよ」とか「うしろをむけ!」といった意識ではなく、「他者が平安になり癒されるように」という意識を送るのは、祈りといってもよいでしょう。
リン・マクダガードは、8名のグループをつくり、そのうちの1名が体調の悪い場合、他のメンバー全員が深い思いやりを持って同時に癒されるようにという意識を送ると、現実に大きな効果を得ることができると言っています。また、先に記したように、意識を送った人たちにもよい効果が及ぶとマクダガードは言います。
先に紹介したマクダガードの著作には、具体的で詳細な意識の送り方が示されています。興味のある方は実際にやってみてもいいかもしれません。メンバーの数は必ずしも8名である必要はないけれど、6人以上12人以下がお勧めだそうです。
これは宗教や神仏が介在していない祈りといってもよいでしょう。
これから科学は私たち人間が持っている意識の大きな力について、さらに解明をしていくことでしょう。マクダガード以外にも、意識の秘められた力を明らかにする研究をしている科学者は多く存在します。
「祈りは気休めに過ぎない」と考える人が多数派である社会は、変容しつつあり、祈りは新しいステージに入ったといってよいのかもしれません。
いっぽう、大いなる力をもった神と呼ばれる存在に自他の平安や癒しを請い願う、伝統的な祈りをしている宗教者、信仰者もたくさんいます。では、この神への祈りは効き届けられるのでしょうか。次回はこの点についてお伝えします。