体験する仏教  

ずっと、ずっと求めていたブッダの智慧

呼吸のちから

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大学の推薦入試に向けての面接指導をしていたときのことです。

「ぼく、あがり症なんです。これって気合で乗り切るしかないですよね」そう一人の生徒から問われました。

「心臓のドキドキを収めようと思えば思うほど、却ってそれが激しくなるなるっていう経験をしたことはないかい。心臓を支配しているのは自律神経で、これは意志の力で調節できるものではないのだ。残念ながら、気合とか意志力といったものは、あがり症の克服には無力なのだよ」そうわたしは答えました。

ここで話を終えたら、生徒は絶望するでしょう。わたしは言葉を続けました。「だが一つだけ、自立神経に意識的に働きかける方法があるのだ」

そう言うと生徒は「それってどんな方法なんですか」と身を乗り出してきしました。

私は言いました。「呼吸を変えればいいのさ」

意識的に呼吸を変えることで自律神経を調節することができるのです。ですがその仕方を間違えると大変なことになります。

実際に行ってみてみていただければすぐに分かります。吐く息を短く、吸う息を長くして呼吸を続けてみてください。気持ちの鎮静化とは真逆の状態になるはずです。これから戦闘するという時にはよいでしょうが、事前にこんな呼吸をしていたら、面接試験は失敗に終わるでしょう。

今度は逆に吐く息を長く、吸う息を短くして、呼吸を少しの間続けてみてください。気持ちが落ち着くことと思います。

最初の短呼吸長の呼吸は、生体を活動的にし興奮させる自律神経の一つ、交感神経を活性化させます。いっぽう二つ目の長呼吸短の呼吸は、生体をリラックスさせ、心臓に対して抑止的な作用をする自律神経の一つ、副交感神経を活性化させるのです。

生徒は、実際にこの二種類の呼吸を試してみて納得していました。

「面接試験の前、待合室で長呼吸短の呼吸を続けているとよい。副交感神経が活性化して、緊張がほぐれてくるはずだ。呼吸を制する者は人生を制するのだ。わかったか」と冗談交じりで言うと、生徒は頷いて、明るい顔で「やってみます」と言いました。

「僧侶は長寿だ」とよく言われます。「職業別寿命ランキングで僧侶は一位に輝いているらしいぞ」と友人が言っていました。親鸞聖人は89歳、一休禅師は88歳で入寂され(亡くなられ)ています。

日蓮聖人は61歳で入寂されましたが、それは、佐渡に流され、後年、冬は酷寒の身延山に住まわれ、身体的に厳しい環境で過ごされたことが影響しているのだろう思います(鎌倉時代にあっての61歳は、決して短命とは言えないと思いますが)。聖人の高弟の一人、日昭上人は、この時代にあって103歳まで生きられました。

僧侶はなぜ長生きする人が多いのでしょうか。その理由の一つに呼吸があるのではないかと思います。「長生きの極意は長息にあり」と言われることがあります。

僧侶は毎日、声を出して読経します。その際、長く息を吐きながら読経し、スッと息を吸って、また長く息を吐いて読経を続けます。読経時の呼吸は副交感神経優位型の呼吸となっていて、これが体によいのでしょう。お題目を唱えるときも、この呼吸になっています。

このことをある高齢者にお話ししましたら「いいことを聞きました。読経健康法ですな。私も今日から毎日読経します」とおっしゃていました。

「吐く息を長く」という点では、歌うのもよいと思いますが、読経の場合は、清浄な言霊(ことだま)が心を洗ってくれます。それも意味を理解して唱えれば、なおよいでしょう。

わたしは、東京と横浜で、お経を唱え、法華経を学ぶ勉強会を開いています。関心のあるかたは、お問い合わせください。